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地域活動コラム

まちの未来をつなぐ人
2026年03月03日 [まちの未来をつなぐ人]

呼吸器生活向上委員会 代表 鈴木妙佳子さんの挑戦〜神奈川から広がる「ともいきシネマ」〜

呼吸器生活向上委員会 代表 鈴木妙佳子さんの挑戦
呼吸器をつけて映画鑑賞
「映画館で映画を観る」。多くの人にとっては日常的である娯楽に、難しさのある方々がいらっしゃいます。例えば、今回ご紹介する医療的ケアが必要な子ども達。人工呼吸器の駆動音、痰の吸引、ストレッチャーでの移動など、ハードルは高く、静寂がマナーとされる映画館で機械音を気にせず安心して楽しむことは難しいことでした。本記事では、そんな医療的ケアが必要な子どもを育てる母親、鈴木妙佳子さんが行政や企業を動かして実現した「ともいきシネマ」の軌跡をご紹介します。

ともいきシネマ(会場正面から)
親たちの切実な想いと、沈黙を破ったひとこと
活動のきっかけは、神奈川県の黒岩知事と各分野で活動されている方々によるオンライン対話ミーティングでした。参加した「呼吸器生活向上委員会」の鈴木さんは、知事の「どんな社会になってほしいか」という問いに、こう答えました。「私たちは重い障害や病気を抱える子の親なのですが、子どもたちは本物の映画館で映画を観たことがありません。子どもたちと一緒に安心して映画を観たいです」。人工呼吸器の「シュコー」という音や、光るモニター、寝たきりの姿勢を保つための大きなストレッチャーは、既存の「車椅子席」では対応できない物理的な制約もありますし、「周囲に迷惑をかけてはいけない」という心理的な壁もあります。2019年に横浜市立東俣野特別支援学校のPTAを発端として「呼吸器生活向上委員会」が設立されて以来、人工呼吸器が必要な子どもたちの親の常時付き添い負担の軽減や生活の質(QOL)向上を目指して活動してきた鈴木さん。かつては保護者の付き添いなしでは学校に通えなかった状況を、関係者とともに課題解決に取り組んできた経験が、鈴木さんを突き動かしていました。

「ともいきシネマ」プロジェクトの始動
プロジェクトの第1回は、2023年に横浜市栄区の「あーすぷらざ」で開催しました。
初回は本物の映画館ではなく、県の施設を利用した“お試し開催”で、マットを敷いて寝転がれる自由な上映会として実施しました。
2回目となる2024年にはステップアップし、本物の映画館「イオンシネマ茅ヶ崎」で開催。
障害の有無にかかわらず、どなたでも参加できる上映会として開催し、134名(うち車いす・ストレッチャー利用者10名)が来場しました。声が出たり、走り回ったりしても「お互い様」と思える温かな空間が生まれました。
そして今回、3回目となる2026年2月には「イオンシネマみなとみらい」で開催。
総応募数は216組722名と大きな反響があり、会場の都合により72組227名にご参加いただきました。そのうち43組が車いすやストレッチャーを利用されている方々です。
これほどの応募があったことに映画館側も大きな驚きを示され、今後もできる限り協力していきたいとのお話をいただいているそうです。

ともいきシネマ
街で見かけたら「こんにちは」と言える社会に
鈴木さんの活動は、医療ケアが必要な子どもたちとその家族が、社会で生き生きと生活できる環境づくりを目指しています。今回は「映画」というイベントを通しての活動ではありましたが、街に当たり前に医療的ケアの必要な子どもたちがいられる社会を願っています。
公園や街中で医療機器をつけている子どもに出会ったとき、無邪気に近づいてくる子どもを慌てて引き離してしまう親御さんの姿を見ることがあるといいます。
その気持ちはよく分かる、と鈴木さんは言います。
子どもが失礼なことを言ってしまわないかと心配になるからです。けれども、そうして距離を取られる経験が、「声をかけてはいけないのかな」という思いにつながってしまうのではないか、と感じてきました。だからこそ、「引き離すのではなく、まずは『こんにちは』とあいさつすることを教えてあげてほしい」と語ります。
そして、特別な交渉や配慮をお願いしなくても、映画館や美術館、バーベキュー場など、さまざまな場所が自然に利用できる社会になっていけばと思っています。

「ともいきシネマ」と制約を解き放った空間
鈴木さんは「言うのはタダ、言わなきゃ始まらない」と笑いますが、その一言が県を動かし、数百人の家族に一生の思い出を作りました。「障害者への配慮」は特別なことではなく、制約を解き放った空間は心地よい優しさに満ちているのだろうと感じます。全国の映画館で「ともいきシネマ」が開催される日を、楽しみにしています。

団体情報
【団体名】呼吸器生活向上委員会
【肩書】代表 鈴木妙佳子
【活動エリア】横浜市全域
【活動時間】不定期
【オフィシャルサイト】https://www.facebook.com/HASSHIN.PROJECT

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