地域活動コラム
まちの未来をつなぐ人
2026年02月04日 [まちの未来をつなぐ人]
「当たり前」を育む地域の食卓〜戸塚・小川庵の子ども食堂〜

食事を超えた、地域の居場所として
近年、全国各地で広がりを見せている「子ども食堂」。その実態は単に「食事を提供する場」に留まりません。戸塚の街で地域住民に愛される「小川庵」が取り組む子ども食堂は、コロナ禍という未曾有の事態をきっかけに産声を上げ、いまや地域の親子にとって欠かせないコミュニティへと成長しました。 本記事では、店長として現場を支える石井涼さんへのインタビューを通じ、食を通じた教育への想いや、急増する利用者への対応といった運営のリアル、そしてこの場所が目指す地域の未来像について紐解きます。
コロナ禍で生まれた「地域のためにできること」
活動の始まりは、コロナ禍の2020年まで遡ります。当時、小川庵の前身であり、同じ運営会社が手がけていた「Cafe With U」では、外出自粛の影響で客足が途絶える状況に直面しました。
その中で模索したのが、「地域のために何ができるか」という問いでした。
子ども向けのブースを設けるなど試行錯誤を重ねる中で、「子ども食堂を始めてはどうか」というアイデアが生まれ、少しずつ形になっていきました。
「当たり前」を手渡したいという想い
現在店長を務める石井さんは、以前は同社の別部門で介護食の調理に携わっていました。子ども食堂という活動そのものに強い魅力を感じ、この取り組みに専念するため、現在の店舗へ転職したといいます。石井さんが大切にしているのは、単にお腹を満たすことではありません。子どもたちが自発的に片付けをしたり、「いただきます」「ごちそうさま」「ありがとう」といった言葉を自然に口にしたりする――そんな“当たり前”を、食を通じて次の世代へ手渡していきたい。
少し「うるさい近所のおじさん」のような、温かな眼差し。その想いこそが、この活動を支える原動力となっています。
月2回、地域に開かれる食卓
現在、子ども食堂は第2・第4火曜日の16時から18時に開催されており、1回に100名から140名もの親子が訪れる、地域の一大イベントとなっています。「キャパシティオーバーに近いですね」と石井店長は苦笑しながらも、その表情には充実感が滲みます。
食卓に集まる、たくさんの「ありがとう」
参加者からは、こんな声が寄せられています。「ごはんがいつも美味しく、子供達もたくさん食べてくれるのでその姿を見るのが嬉しいです!」
「お値段が子供無料、大人200円のため家計が助かっています!」
「お菓子やジュースもあり、子供が毎回喜んでいます」
「まだ保育園に入園前の子どもにとって、いただきます・ごちそうさまでしたが言える場所が本当に貴重。良い学びの場になっています」
ここが、単なる食事の場ではなく、親子にとって安心できる時間と空間になっていることが伝わってきます。
一杯のカレーに込められた、地域の善意
この活動を支えているのは、店舗スタッフだけではありません。家庭で余った無洗米の持ち込みや、月に一度お米を届けてくれる個人の支援者、近隣の小学校の特別支援学級が育てたトマト、さらには鎌倉ハムやイチゴ農園からの果物など、地域内外から多様な食材が寄せられるなど寄附の輪が広がっています。
カウンターで笑顔を見せるボランティアの方々や企業との連携などもあるそうです。
100食以上を提供するため、メニューはカレーやシチューといった「大量調理が可能で、かつ子どもたちが喜ぶルー系」に特化するなどの工夫も。
石井店長は「美味しいご飯を食べてほしい」というこだわりから、手作業で米を研ぐ手間を惜しみません。
こうした多方面からの「善意」が、一杯のカレーとなって子どもたちに届けられているのです。
続けていくために、乗り越えたいこと
今後の展望について、石井店長は「運営のクオリティを確立し、よりスムーズに提供できる体制を作りたい」と語ります。利用者が増える一方で、ご飯が足りず提供を断らざるを得ない場面もあり、その歯がゆさが現在の課題です。
また、スタッフ一人ひとりが「地域のために活動している」という実感を持てる環境づくりも重視しています。
「やらされている仕事ではなく、自分たちも楽しみながら、お祭りのようなテンションで戸塚を盛り上げていきたい。それが地域の助け合いに繋がれば最高」。
その想いが、現場を支えています。
支えられる側から、支える側へ
かつて子ども食堂に通っていた小学生が、中学生になり、今度はボランティアとして運営を手伝いに来る。そんな「支援の循環」も生まれ始めています。
子どもたちにとって、ここは家庭でも学校でもない、第三の「安心できる居場所」になりつつあります。
手間暇の先にある、子どもたちの未来
利便性や効率が重視される現代において、手間暇かけて研がれたお米を食べ、地域の大人たちに見守られながら挨拶を交わすというシンプルな「食の交流」が、子どもたちの健やかな心を育む土壌になっていると言えそうです。活動が広がり、認知度が高まる一方で、設備や食材の確保といった運営上の苦労は絶えません。
しかし、そこに集まる笑顔がある限り、これからも「小川庵」は地域を明るく照らし続けることでしょう。
街で子ども食堂の取り組みを見かけたとき、その裏側にある想いに、ふと目を向けたくなります。
店舗情報
【店名】小川庵【所在地】神奈川県横浜市戸塚区戸塚町145
【アクセス】戸塚駅から徒歩7分
【TEL】045-515-9370
【営業時間】月〜土 11:30〜15:00 17:00〜22:00/日 11:30〜15:00 17:00〜21:00
【子ども食堂】第二・第四火曜日 16:00〜18:00 どなたでも(こども無料/大人200円)
【オフィシャルサイト】https://www.instagram.com/ogawaan0412/
取材日:2025年12月19日
